管理職への昇進条件は「外部経験」 金融機関で行われたチーム改革

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「デジタルトランスフォーメーション(DX)」とは、デジタルを活用して組織を変革していくことであり、重要なのはシステムを刷新することではなく、変化し続ける力を身に着けることです。

これは、私がよく講演で一番初めにお話しする言葉です。なぜこの言葉を強調しているかというと、いまの日本で私が一番危機感を抱いているのは、変化や変革をし続ける力が弱いことだと思っているからです。

日本は戦後、人口増加に伴う需要増加から、良いものをたくさん作れば売れるという成功体験をしてきました。真面目な気質も相まって日本製品は信用され、世界でも求められる時代がしばらくありました。結果、世界的にも豊かで安全安心な国という地位も得ることができ、大きな変革ではなく改善の積み上げだけで十分でした。

しかし、すでに状況は一変しています。環境変化が激しく先行き不透明な「VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)」の時代へと突入し、1年後の見通しすら予測が難しくなってきていると言われています。

ダーウィンの名言に「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ」とあるように、まさに、いまの時代、変化できるものが生き残っていくのだと思います。

では、どうすれば変化し続ける力を身に着けることができるのか。特にDXという文脈でチームを変革していくうえで実践すべきことを、企業の事例とともに書いていきたいと思います。

1. 越境をしてみる(金融機関A社)

変化し続けていくためには、いま変化が必要な状況かどうかを疑う能力が必要です。しかし、長い間同じ組織に属していると、いつの間にか染まってしまい、組織の常識が世間の常識のように感じられてきてしまうもの。また、「変革を」と考えても、日本人の失敗してはならないという真面目な気質もあり、現状をより良くする「改善」はできても、延長線にない「変革」にはなかなか至らないのです。

ある金融機関A社では、2022年度から管理職への昇進条件として「外部での経験」を挙げるようになりました。理由は、所属組織で得た経験だけでは、新規ビジネス開発などの変革がもたらす成長は頭打ちであり、多彩な人材育成や外部連携強化が実際に課題になっているからです。実際に、異なる現場を体験してみると、頭では難しいと思っていたことを打破したり、自分たちの当たり前でないことを体験できます。A社では、出向や社外での副業などを通じて得た知見や人脈を生かし、新しい視点のサービスを生み出すことができました。

自分たちの当たり前が異なること、他社にとっての当たり前を体験することを何度も繰り返しているうちに、多面的に物事を見ることができるようになり、変化に気付きやすい体質へと変化していくことができます。
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文=INDUSTRIAL-X・中村祥子 編集=露原直人

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