【イベントレポート】中四国DXサミット2023

〜中四国エリアから、日本の産業が変わる〜

2023年7月28日(金)13:00-17:30
Hiromalab(広島市中区)
【開催概要】
日時:2023年7月28日(金)13:00-17:30
主催:株式会社INDUSTRIAL-X、一般社団法人中国経済連合会
後援:四国経済連合会
場所:Hiromalab(広島市中区)
参加方法及び費用:会場参加(無料:50名様限定)オンライン視聴(無料)*事前登録制
対象:DX導入に興味関心のある方、DXの最新情報を知りたい方、DX導入推進を検討中の事業会社様、ご担当者様

講演のアーカイブ動画も公開中です。

セッション 1

共通プラットフォームを基軸に、DXで第一次産業の構造を変える


長年の経験と勘に頼った作業が多く、なかなかデータ連携が難しかった第一次産業。本講演では、共通データプラットフォームという観点で、農業や水産業において、職人の勘と経験をデータ化することで新規参入ハードルを下げたり、作業精度を向上させることで新たな付加価値を生むなど、データをフル活用した第一次産業の新たな可能性についてディスカッションしました。

【レポート】
“どの作物も、すべては一つの科学式に当てはまる”
経験と勘が基本であり、デジタルと縁が遠いと思われがちな農業。しかし実は科学の観点から見てみると、制御できる要素がほとんど(※人のやる気などデジタルで制御できない要素もある)。

日本一の収量を誇る高知県が着目したのは「デジタルによる光合成量の把握」であった。それぞれの農家が“感覚で”判断していた作業をデータに基づく作業に整えていったところ、実際の農家ですべての品目の品目において収量が拡大したという。取り組みから7年で、現在では1,700件の農家(主要品目のうち60%以上)がこのデータ管理を活用する中、それぞれが個人事業である“農家ならではの課題”や、実際高知県で利用されているデータプラットフォーム“SAWACHI”の仕組みについて、岡林氏から解説をいただいた。

“新規参入者でも“高品質”を“失敗なく”。スマート牡蠣養殖システム”
徳島県に本社を構える株式会社リブルは、自らが水産業を営み現場の実情に触れながら、新規参入者に向けて牡蠣養殖における意思決定のためのデータプラットフォームを構築した。データで管理することを念頭に置いた種苗の開発や養殖方法にも注力していると早川氏は言う。

このスマート牡蠣養殖システムでは、海水温度、塩分量、クロロフィル、濁度といった海洋データや、牡蠣の生育に影響するカゴの揺れをとるデータを収集しながら、「海と資材があればその日から養殖が始められる」を目指し、香川県や愛媛県、青森県にも提供が進んでいる。

 

“独自のプラットフォームを構築するよりも、既存のものを活用する選択”
広島県庁 農林水産局 長戸氏は、広島県で独自のプラットフォームを構築するという0→1(ゼロイチ)は負担が大きすぎる。「成功も失敗も含めて、農業に特化したノウハウが詰まった高知県のSAWACHIだからこそ、魅力があった」と語った。

共通基盤としてのデータプラットフォームを考えるにあたり、重要なのが「競争領域」と「協調領域」である。高知県、広島県それぞれのデータは公開されておらず、“収集したデータを蓄積し、生育に有益な情報を提案する仕組み”を共有するだけなので、基本的にはお互いの干渉は無く、有機的な情報交換、切磋琢磨しながら2県が一緒に進めていくということが大切だと岡林氏が補足した。

労働人口が減少し、個々個別のプラットフォームの構築、運用が厳しくなっている日本だからこそ、ある地域で作られたプラットフォームを、その地域だけで利用するのではなく他地域に展開し、共同利用していく必要がある。

 

・・・アーカイブ動画では
▷ 高知県 農業プラットフォームSAWACHIの仕組み
▷ 自治体・民間主導それぞれの「目指していた姿」と「現状とのギャップ(取り組みを阻害する要因)」
▷ プラットフォームを利用者に拡大していくために重要なこと(利用者のメリットは何か)
▷ 農業と水産業の境目を超えたコラボレーションの模索

などなど盛りだくさんの議論がご覧いただけます。

セッション 2

“全体最適観点”で捉える全社DXとは

本講演では、部門をまたがる業務のデジタル化に取り組む企業の事例と、 “全体最適”を通したスループット最大化の方法についてディスカッションしました。

 

【レポート】
“全体最適とは”
冒頭には、セッションのキーワードである「全体最適」についてモデレーターの株式会社INDUSTRIAL-X 山下より導入を行った。登壇者である2社の共通点である“製造業”において、多くの場合は作業分担が行われておりそれが部門ごとに管理されている。工場全体の効率を上げようとした際に、それぞれの工程が個別に改善活動を行い生産性を向上したとしても、一つでも生産性が低い工程があれば、全体としての生産性は上がらない。だからこそ、個別最適と並行して全体最適を見据えることが重要だ。という考え方である。

ただ、それも簡単な話ではない。実際の現場で組織のリーダーとしてどのようなスタンスを持っているか、社員をどのように巻き込んでいるかなど、2社のそれぞれのカルチャーが際立つ議論が繰り広げられた。

 

“「やらなければならない」から「できたらいいな」への転換”
少量多品種生産かつ、お客様のニーズが複雑化しがちという状況下で、アサゴエ工業株式会社藤原氏は時代の変化について触れた。「これまではお客様からのニーズがあり、特定のデータ収集が必要になることが多かった。今ではプログラムがオープン化し、自分たちが『このデータを収集したい』と思いついたアイデアをIoTで実現できるようになった」これは社員一人ひとりの「あったらいいなを自ら形にできる」というモチベーションの源泉に直結しているようだ。全体としてなりたい姿(全体最適化)を見据えながらも、まずは目の前の課題を潰していく(個別最適化)というスタンスで取り組んでいるという。

 

“必要不可欠だったデジタルの仕組みを活用して、海外と繋がる工場へ”
毎月6-7,000種×2-3万個の生産を100名で管理している(しかも納期は1-2週間だという)株式会社ひびき精機松山氏は、「社員にとっては、デジタル化されている環境があくまで“前提”であり、社をあげて長年デジタル化には取り組んでいる。」と語った。現在では自社の工場内の生産データを徹底的に収集し、工場間での人の行き来を極力なくすように努めている。その展開として、ゆくゆくは山口県下関市を飛び出し、海外の工場でも生産が実現できる状態を作りたいのだという。

2社のお話から、「改善においては現場がわかっている自分たちがシステムを構築することが大半」であったり、「全体最適にこだわりすぎるのではなく、目の前の課題をまず着実にクリアしていく」といった共通点も見られた。

 

・・・アーカイブ動画では
▷ 業務ノウハウを社内共有するかの工夫(作業現場のローテーション、人不足の際のサポート)
▷ 業務の効率化と並んで重要な“人材の全体最適化”について
▷ 社員の巻き込み方
▷ 組織のリーダーとして意識していること

など、現場に寄り添うお二人の熱い思いをご覧いただけます。

セッション 3

デジタルと既存事業とのシナジーで実現する、新規事業創出

本講演では、自社の強み(既存事業)とデジタルの掛け合わせでビジネスを創出し、企業の新たな収益柱を立てることに取り組む企業の事例をもとに「自社の勝ち筋の見つけ方」についてディスカッションしました。

 

【レポート】
“自社の強みをどう活かすか。サプライチェーンを作るべく経営者一人で飛び込んだ新規事業”
愛媛県の株式会社ジツタはもともと測量機器などの販売を行う企業だ。建設業界は国政による影響を受けやすいこともあり、公共投資が下がれば企業の売り上げに直結してしまう。自社のノウハウが活かせないかと考え、始めたのが林業のデジタル化の取り組みだった。林業は属人的な工程も多く、建材メーカーとサプライヤーの間のニーズがマッチしていない実情も多いという。「デジタル化することで、現場の属人的な判断ではなく、客観的な判断を下すことができる。」データによって「見える化」することによって生まれる新たなサプライチェーン創出のために、代表の山内氏は自ら新規事業として飛び込んだという。

 

“サプライチェーンの構造から見直し、自動車リサイクル業界のサーキュラーエコノミーを実現”
山口県で自動車リサイクル業を営むシーパーツの吉川氏は業界の課題について2つ言及した。
一つは「日本における自動車部品や中古車のニーズの減少」で、もう一つは「海外バイヤーによる寡占市場」である。島国であることや、全国的に道路整備がなされていること、また、技術の発展による事故防止など世界と比べても日本における中古車部品のニーズは変ってきているようだ。だからこそ海外からの“滞在バイヤー”なる人物たちに主導権を握られてしまうという。それを打破すべく作られたのが「国際的な自動車リサイクル部品販売システム」のGAPRAS(ギャプラス)だ。

驚きなのは、このオークションシステムは出品者と購入者としての利用だけでなく、プラットフォーム自体を同業他社に提供しているという点だ。海外市場に日本企業が太刀打ちするためには、仲間を集めなければならない。吉川氏の思いや、GAPRASの具体的な仕様についてはアーカイブ動画をご覧ください。

 

・・・アーカイブ動画では
▷ 林業におけるデータプラットフォームの全貌や実現できること
▷ GAPRASの具体的な機能
▷ 既存事業×デジタルで実現する新規事業において、どのように収益判断を下すか
▷ 社内をどのように巻き込むか

などなど全く異なる業界のお二人の意外な共通点もご覧いただけます。