CONFERENCE X in TOKYO 2020

【イベントレポート】Conference X in 東京2020

~コロナ禍を生き抜く「クロス戦略」と最新事例~

2020年12月11日(金)
オンライン開催
2020年12月11日(金)、弊社とシェアエックス株式会社は企業・産業・社会のつながりから、新たな価値を創出する『Conference X ~コロナ禍を生き抜く「クロス戦略」と最新事例~』をオンラインで開催。
当日は、コロナ禍においても成長し続ける企業・組織から、先進的なクロス戦略(交流・協業・境目を超える・シェアリング・新たなエクスペリエンス・トランスフォーメーションetc)を伺った。本レポートでは、全4セッションの内容をまとめてお届けする。

目次

セッション 1

Business Transformation

コロナ禍においてビジネス環境と価値観はどう変化したか。それにより企業活動や働き方の方向性、今後の組織のあり方はどう変わるのかを議論。コミュニケーション、金融、社会インフラと様々な現場のリアルを語った。

今注目している社会の変化について

最初にファシリテーターの光村氏は「コロナ禍で社会は大きく変化した。この生活を1年続けてきた今、どのような社会の変化に注目しているか」を尋ねた。

TOUCH TO GOの阿久津 智紀氏は「収支構造が変化した。鉄道での移動が制限されたことにより、駅周辺の小売やホテル、飲食の売り上げが圧倒的に減少。売り上げ30%低下といった事態にいち早く手を打って取り組めた人が勝てる」と話した。

マネックス証券 清明祐子氏は「ライフスタイルや働き方など価値観の多様化が加速している。企業は外圧的に提供価値を再考することになった」と語る。
Chatworkの山本正喜氏は「政府の緊急事態宣言を境に自社サービスへの登録者数が跳ね上がったが、急激にリモートへの熱が冷め日常に戻っている。変化している社会としていない社会で分断が大きくなっている。コロナ禍が長引くことで、この分断がどうなっていくのか注目している」と話した。

光村氏が「変わろうとする・しないの線引き」を尋ねると、阿久津氏は「収益に打撃を受けていない事業は”まだ大丈夫”と思っているだろう。収益が大幅に落ち込んだ企業は変わらざるを得ない。その意識の違いにより分断が起きていると思う」と語る。
山本氏はその他の分断について「IT業界は以前からリモートワークを導入している会社もあり、在宅勤務へのシフト率が9~10割という会社が多い。コロナ禍後に対応し始めた企業は大変だったと思う」とコメントした。

清明氏は「一般的に在宅勤務が難しい金融業界だが、当社はオンライン証券のため、緊急事態宣言時には5割を在宅勤務に切り替えることができた」と説明した。一方で5割にとどまった理由として「個人情報を扱う業務担当者やコールセンターの在宅勤務は難しかった。現在は約7割の従業員が出社している」という。

パンドラの箱が開いてしまった

「多様な働き方を希望する若い世代は、リモートワークに消極的な企業から離れていくという現実もある。パンドラの箱が開いてしまった。」(光村氏)

そこで光村氏は、「オンラインコミュニケーションがどう捉えられているか」を山本氏に尋ねた。それに対し山本氏は「コロナによる根本的な変化は”IT食わず嫌いが治ったこと”。これまでのITソリューションは高額で難しかったが、今は安価で高品質なツールが増えている。こうしたツールを使わざるを得ない状況になったことにより、”案外使える!”と現場が気がついた」と話した。社会全体が今までの不便さに気がついたことで、(適応できない企業に対しては)離職が進んだり、採用の観点で選ばれなくなったり、大きく社会が動いていくと語った。

阿久津氏は、自身が1日もリモートワークをしていないことから「フロント側のIT化は進んでいるけれど、社会基盤などバックエンド側は圧倒的にITとの相性が悪く遅れている。それは一種のビジネスチャンスでもある」と話す。
山本氏は「コミュニケーションツールサービスを開発する会社とはいえ、他社同様に問題もある。在宅の環境が整備されていないことが大きな課題であり、早く戻ってほしいと思っている…」と正直な気持ちを語った。

自立した個人とチームを育成する

経営者の意見として清明氏は「ルールを作っても働きづらい。ある程度の枠組みは会社が作り、それ以上はチームワークで運営を促すことが良いと考えている」と述べた。山本氏は「基本はオフィス出社を推奨しているが、子育てや介護など個人の様々な事情もあるため、”自分が一番パフォーマンスを出せる場所を選んでください”と伝えている」と話した。

その後パネリストたちは、全てをルール化することは難しい状況においては、個人の自立と、変化に柔軟になることが重要であるという議論になる。
「自立には、楽しく働く意識や、仕事へのオーナーシップをもつことが大事。また、人間は基本的に『変わりたくない』のが本能だが、市場や時代は常に変化をしている。経営とは変化したくない人たちを変化させること」と山本氏は話す。

清明氏は「マネックス証券もベンチャー気質は残っているが、もう22年目でどうしても同じことの繰り返しになりがち。失敗を許容する文化はあるので、そこにもう一度気付いてもらい変化していく後押しが必要。小さなことでも褒めるコミュニケーションを心がけている」とコメント。社員20名程度のTOUCH TO GOを率いる阿久津氏も「自立性がある人・ない人で二極化していくと思う。感覚が薄れないよう、現場やオフィスに出向くようにしている」と述べた。

大事な”危機感”と個人に求められるモノ

ここで光村氏は、パネリストたちがもつ”危機感”に注目する。「これだけ変化の激しい時代では、これまでと同じ生き方は個人として通用しなくなると思っている。個人として変化に対応しながら生きるために、何が備わっていると良いのか」をパネリストに問いかけた。

清明氏は「何をやっているときが楽しいか、人生をどう生きていきたいかを見つけること」だという。山本氏は一時期流行した”いきがい”の意味について触れ、「やりたいこと/得意なこと/稼げること/社会が求めていることの4つの円が重なるところが天職。仕事は我慢するものではなく、やりたいことを仕事にする流れに変わってきた。」と説明する。

リモート環境における教育、カルチャーの伝承

最後に視聴者から「リモート環境における教育やカルチャーを伝えることが課題になっているが、どう対応しているか」と質問があった。

これに対して山本氏は「社内Youtuberが話題になっている。リアルで開催していた全社ミーティングをそのままオンライン配信しても、退屈で聞いてもらえない。エンターテイメントにすることで圧倒的に見てもらえ、かつ会社のカルチャーが伝わるメリットがある」と紹介した。

最後に

最後に、清明氏は「デジタル化社会だからこそ、人との触れ合いは大切だと感じた。また、Youtuber育成も取り組んでみたい」と意気込んだ。また山本氏は「以前から社会は変化していたが、今はコロナの影響によりその変化が加速した状態。コロナで足踏みした企業も多いが、くるべき未来を覗き見したと捉えることでアドバンテージにできると思う」と語った。

光村氏は「キーワードは多様性。多様なものをいかにそのままマネジメントするか、が鍵である。コロナはその時代の蓋を開けた。その解決策としてDXなどテクノロジーにも期待している」とまとめた。

【登壇者】
・マネックス証券株式会社 代表取締役社長 清明 祐子氏
・Chatwork株式会社 代表取締役CEO 山本 正喜氏
・株式会社TOUCH TO GO 代表取締役社長 阿久津 智紀氏
・三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 光村 圭一郎氏(ファシリテーター)
セッション 2

Digital Transformation

本セッションでは、顧客の困りごとや現場の課題を読み取り、デジタルの力でこれまでにない先進的な取り組みをしてこられた先駆者達に登壇いただき、DXの現在地や今後について討議。

DXで先を走る登壇者たちが、何に着目してDXを推進し、どのようなX(業界や事業のクロス、パートナーとのネットワーク、新たなエクスペリエンス)に言及するのかに注目!

ピンチはチャンス!?コロナが生んだ追い風

ファシリテーターを務めたINDUSTRIAL-Xの八子氏はまず、「コロナによってDXはどれくらいインパクトを受けたか」と問いかけた。
これに対し、ミスミグループ本社の吉田氏は、「他産業に比べ製造業の会社は大きな影響を受けたが、DXという観点で見ればこれはチャンス。一気にデジタル化が進み、追い風になっている。この追い風をどう事業に生かしていくかが重要」と話した。

バオバブの相良氏は「設立当初からリモートワークが前提なので、自社へのインパクトは大きくなかった。むしろ片道3時間かけてお客様を訪問していたが、相手もオンラインに対応し始めたので1日のアポ数を増やすことができ、チャンスだと感じている。一方、お客様からは、コロナの影響によりAIの学習データ収集が止まってしまったという相談が増えた。DXの推進はもはや必須で、”背に腹は変えられない”状況」と語る。

高知県/IoP推進機構の松島氏は、国から各自治体に補正予算がおりたことを説明しながら「今はDX推進のチャンス。施設園芸農業に必要なデバイスメーカーのデバイスを高度化(AWSへ接続)する補助事業を推進し、その後IoPクラウドに連携してもらう流れを作ることができた。デバイスメーカーは他のクラウドにも接続可能となったので、各社にとっても大きなチャンスになったのでは」と述べた。

最初の質問で3者に共通したのは、コロナという混乱をチャンスと捉えている点である。状況を悲観せず、ピンチをチャンスに変える方法を模索する姿勢が窺えた。

DXにおけるAIの重要性

次に八子氏は「工場の現場や日常のあらゆるモノからデータを収集したあと、そのデータを処理、解析するのは人間であり大変な作業になりつつある。その大量のデータを解析するためにAIを活用するのが今の新しいビジネスを作る流れ。DXにおけるAIの重要性とは」と尋ねた。

吉田氏は「製造業のバリューチェーンを見ると、設計、製造、販売と比較して調達は非効率で全体のボトルネックになっている。ソフトウェアで設計したあと、30分かけて紙の図面に書き起こし、FAXで見積もりを依頼している。Meviyは、設計したデータをそのままアプロードしてもらい、3秒で見積もり、最短で即日出荷を可能にした。AIはこの仕組みの実現において重要な鍵となっている。」とコメントした。筆者もよく講演や記事などで製造業に根付くアナログな慣習について知ってはいたが、改めてその現実を実感した。

松島氏にAI活用状況を尋ねると、「実はAI開発を行っている。温度や二酸化炭素濃度、日射量など施設園芸農業には様々なパラメータがあり、それらを計算して光合成の速度を最大化することで出荷量を増加できる。今は個々の農家さんのデータをIoPクラウドに集約することで、生育スピードや出荷時期予測のアルゴリズムを開発中」と話した。農家さんからのデータ収集を実現するため、説明会を開くなどして徐々に仲間を増やしてきた経緯も振り返った。

こうしたAIビジネスを”縁の下の力持ち”として支えるバオバブの相良氏は、「AIといっても、アノテーションにおいてはまだまだ人間が関わらないといけない。クライアントによってアノテーションのルールが異なるため、難易度は上がってきている。」と説明する。
解決したい課題が異なるので一概に標準化することは難しい、と登壇した3者が賛同した。

1社だけでは進まない。”共創”という考え

続いて八子氏は、「DX推進における共創の難しさと重要性」について尋ねた。
松島氏は、それぞれの取り組みと結果をデータで振り返る重要性について触れた。その上で、「高知県施設園芸農業の発展のため、そして高知県がロールモデルになるという大義名分がある」ことで、利害関係の境目を超えた共創が可能になっていると話した。

相良氏は「バオパートとの深い交流を大事にしている。」と語る。バオパートは現在22ヶ国、800名以上から成り立っている。当然個々の事情によりオペレーションの組み直しを余儀なくされることもあるが、常日頃からコミュニケーションを大切にすることで高品質を保っているという。

吉田氏は「自社だけでは実現できないときは、クロスする必要がある。オープンイノベーションの意識で、仲間集めをしていくことでmeviyを創り上げた」と振り返った。

デジタル=殺伐とした世界、ではない。

最後に、今後どんなDXに取り組んでいきたいか尋ねると「職業の境目がなくなる世界にしていきたい。そのためには、今日のテーマである”クロス”が鍵となると思う。」(松島氏)相良氏は「世界一楽しいアノテーションツールを作りたい。国籍やバックグラウンドが異なる人も楽しくチームを組むためにDXを推進していく必要がある」と語った。吉田氏は「ものづくりを元気にしたい。DXにより無駄を省き、生まれた時間で付加価値の高い仕事ができれば産業の活性化に繋がる」と話す。またmeviyのグローバル展開を見据えて、国という境を越え日本初のグローバルプラットフォーマーを目指すと意気込んだ。

八子氏は最後に「DXといってもデジタルで完結するわけではない。トランスフォーメーション後の姿やその過程では、心の交流(クロス)があったり、職業のクロスが生まれたり、アナログで温かみある部分も存在する。デジタルというと殺伐とした世界を想像するが、大事な価値観が何かを見極めながらDXに取り組んでほしい」と視聴者へメッセージを送った。

【登壇者】
・株式会社ミスミグループ本社 常務執行役員 兼 ID企業体社長 吉田 光伸氏
・高知県/IoP推進機構 理事 松島 弘敏氏
・株式会社バオバブ 代表取締役社長 相良 美織氏
・株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役社長 八子 知礼(ファシリテーター)
セッション 3

Alliance Transformation

競争から共創の時代へ。VUCA時代といわれる今、顧客が抱える課題は多種多様である。今こそ共創(アライアンス)によりスピーディーな成長を目指すことが必要とされる。生き残りと急成長を両立するアライアンスとは何か、オープンイノベーションの位置づけをどう変えていくのかを議論した。

今だからこそ、共創戦略。自社の魅力を磨くことも忘れない。

まず中川氏は「コロナ禍において、共創戦略を加速させているか、緩めているか」を尋ねた。
Sun Asteriskの小林氏は「(共創戦略を)加速させている。お客さんの中には長年続く昔ながらの会社も含まれる。そうした会社が持つアセットとテクノロジーを組み合わせたらどんなことができるのか考えると面白い」と語り、全国の野球チームに野球器具を卸している会社を例に、テクノロジーを掛け合わせた課題解決の可能性について紹介した。既存アセットの魅力は自社では気がつかないこともあり、共創することで再発見されることもあるという。
AnyMindの十河氏は「うちも共創戦略を進めていて、今も2社進行中。また、今年3月にインドの会社とM&Aを行った。コロナの影響によりその後1度も会えていないが、事前にM&Aの目的をしっかりすり合わせていたおかげで、オンラインでも好調」と説明。また、オンラインだからこそ積極的なコミュニケーションをお互い心がけていることも、一つの成功要素だと話した。
一方、グロービス・キャピタル・パートナーズ 野本氏は慎重な姿勢も見せる。「アーリーステージのスタートアップは、まずコアコンピタンスを磨くことで共創相手にとって魅力的な会社になることをアドバイスしている」と話す。
また、年間1,500社が参入する成長産業の人材紹介において、森本氏は「アライアンスが比較的進んでいる産業。共創により様々な職種や役職者をカバーできるようにしたり、人事制度などHR全般のソリューションを提供したりするようにしている。」とコメントした。

可愛がられ力、巻き込み力、俯瞰する視点…共創戦略推進で活躍する人材

次に中川氏は「共創戦略の推進において活躍できる外部人材、内部人材とは?」と問いかけた。これに対し、野本氏は「可愛がられること。自分が知らないトピックに携わることも多いため、プライドに邪魔されず”教えてください!”と言えることが重要」と語った。

十河氏は「巻き込む力が大事。また、ビジネスを創っていける人。(共創による)組み合わせでどんなシナジーが生まれるか、どんな世界を作れるのかを想像し、それに対してゴールを設定してコミットできる人が向いている」と話した。

小林氏は「偏見があまりない人。俯瞰して物事を見ると気がつくことも多いので、視野を柔軟に変えられることが大事」と語る。また視座を上げるにはどうしたらいいのか?という野本氏の質問に対して小林氏は「感じた違和感を無視せず、なぜ?と向き合うことで視野は広がっていく」と説明した。

森本氏はリクルート創業者 江副氏とのエピソードを交えながら「新しいものを創ることとは、過去の成功体験などを壊すことだと教わった。社内人材はしがらみもあり既存のものを壊せないこともあるため、そういった場合には外から迎えることも有効」と話す。

コロナ禍でも進むオープンイノベーション

続いて中川氏は「共創といえばオープンイノベーション。コロナ禍でどう進めているか、もしくは不要か」を尋ねた。小林氏は「日本で求められるのはエンタープライズとスタートアップのコラボ。当然進めるべきだと思う。お客様をみているとここは繋がったらすごいモノが生まれるな、という組み合わせがあるので、ハブになっていきたいと思っている」と話した。
顧客にレガシー企業も多く含まれる森本氏は「大企業とベンチャーの行き来を進めたいと双方が考えている。経営思想が全く異なるので、ぶつかり合えばイノベーションが生まれる。その良い流れはすでに生まれてきていると思う」と語る。
野本氏は「一時期バズワード化していたが、最近落ち着いてきた。コロナを考慮すると、今後のさらなるインパクトを想定し、大企業であれば内製化しないことでいつでも撤退できるオプションを残しておくことも選択肢」と自身の考えを共有した。

偶発的な出会いの重要性

最後に登壇者同士の質疑応答を行なった。森本氏は「共創にはネットワーキングが大事。人脈を広げるためにしていることは?」と質問した。野本氏は「以前は飲み会が大事な場だったがその機会も減り、偶発的な出会いが減って悩ましい。Twitterで絡みに行ったりしている」と話し、オフラインの場は絶対的に必要であると登壇者全員が同意した。

まとめで中川氏はアライアンスハブ(Alliance Hub)というコミュニティを紹介。アライアンスの必然性を時代に即して言語化し、その有効性や事例を発信することでアライアンスを増やしていくという。登壇者たちは「利害関係に関わらず、ゆるく繋がる場が増えれば」と期待を寄せる。

【登壇者】
・株式会社Sun Asterisk 代表取締役 小林 泰平氏
・株式会社morich 代表取締役兼 All Rounder Agent 森本 千賀子氏
・グロービス・キャピタル・パートナーズ シニアアソシエイト 野本 遼平氏
・AnyMind Group 代表取締役CEO 十河 宏輔氏
・シェアエックス株式会社 代表取締役 中川 亮(ファシリテーター)
セッション 4

Social Transformation

最後に、これまで議論してきたテーマ(BX/DX/AX)を通じて社会をより良い方向に変えていく(ソーシャルトランスフォーメーション:SX)について、先進的な取り組みを行う登壇者3名と議論した。

社会変革事業に着目したきっかけ

ファシリテーターのINDUSTRIAL-X 八子氏はまず、「なぜ社会変革ビジネスに着目したのか」と問いかけた。これに対し、プロパティエージェントの中西氏は、「自分はビジョナリーカンパニーを読んで起業した。一見不動産とは無関係に思える顔認証プラットフォームビジネスも、人の生活に存在する”境目”の面倒を払拭するサービス」と語る。たしかに、朝電車に乗るとき、オフィスに入室するとき、レストランで支払いをするとき、家に帰ったとき、それぞれの場で異なるカードや鍵(認証)が必要となる…こうした行動が顔認証でシームレスにつながることで、生活様式は大きく変化することが想像できる。

ボーダレス・ジャパンの鈴木氏は「過去の経験から、社会課題事業は(それじたいで)お金が回らないとインパクトが出ないことを痛感した。社会課題を解決していくには、ビジネスのバリューチェーンの中に課題を巻き込んでいくモデルが必要と考えた」と説明した。

石山氏はシェアリングビジネスに着目した背景について「株式会社である限り利益優先で戦略が組まれ、後回しにされてしまう課題があることに着目した。社会変革の恩恵を誰もが安心安全に享受できる社会にしたい、と思い業界団体という形態を選んだ」と話した。

ストーリーで共感を呼ぶ。無理強いはせず、ときには待つことも大事。

続いて八子氏は「推進していく上でこれまで直面した課題と、どう乗り越えたのか」を尋ねた。それに対し、多くのしがらみが残る議員を相手に石山氏は「シェアリングエコノミーにどう共感してもらい、応援してもらうのかという課題があった。今の社会にシェアという考えがどう価値があるのか、ストーリーで戦略的に訴えた。」と感情に訴えかけた例を紹介した。

中西氏は「顔認証には賛否両論あり、なおかつ、プライバシーとセキュリティの問題がある。無条件に顔認証が怖いと感じて反対する人がいるうちは、無理に事業を推し進めても失敗するので、長期的なスパンでビジネスを進めていく戦略に切り替えた。またプライバシーとセキュリティについては、他国の対策も参考にしながら検討していきたい。」と説明した。

鈴木氏は「創業当時、”社会課題を解決するビジネス”と聞いてピンとくる人は少なかった。そのため、バリューチェーン全てを自前で整え完成したモデルを他社が真似してくれる時代まで走り抜く、と決めてやってきた。ようやくソーシャルビジネスという言葉が浸透してきた」と当時の困難を振り返った。また、リソースの限界を感じたボーダレス・ジャパンは、ソーシャルビジネスに挑戦する人が集まりノウハウやリソースをシェアできるエコシステム形成に現在力を入れており、社会起業家を支える仕組み作りを行なっている。

1社では実現できない。ノウハウやリソース、ビジョンをシェアする時代。

こうしてみると、地域や企業が保有するリソース、人材、ノウハウなどをシェア(クロス)する意識が社会変革においても重要であることがわかる。ここで八子氏は「企業や人の繋がり、協業、交流」についてどのような視点が求められるか登壇者に投げかけた。

中西氏は「我々がやろうとしていることは、1社では実現できない。日本企業によるプラットフォームを作り、顧客の囲い込みをすることで世界のGAFAに対抗していく必要がある。今の時代はスマホがあり、業種を超えて連携が可能。シナジーは生み出しやすい環境」だと話した。

鈴木氏は「人間は自由を求めてきたかわりに繋がりが薄くなっていった。今大事なのは何を理想として歩むかというビジョンの共有。また、ヒエラルキーがなくなり、フラットな関係性が今後築かれていくと思う。そこでは個人の持ち味をどう活かすかという観点が大切」と説明する。

今後の挑戦。テクノロジーや教育によって生まれる、新しい価値。

八子氏は最後に、今後どのような社会変革に挑戦していきたいかを問いかけた。
中西氏は「テクノロジーにより、人はクリエイティブなことに時間を割けるようになる。プロパティエージェントは不動産の観点から都会も田舎もスマート化させ、人の可処分時間を生み出していきたい。」と語った。

石山氏は「新しい形の”組合”を作りたい。資本主義は格差を広げ、ユーザーが意思決定に携わることはできないため民主主義とはいえない。一方で組合は、一緒にお金を稼ぐこともでき、ガバナンスにおいて1人1票を持つことができる。EUでも組合型プラットフォームが出てきているので、日本でもテクノロジーと組み合わせることで、組合型ソーシャルビジネスを生み出していきたい」とコメントした。

鈴木氏は「ボーダレスグループは社会起業家を子会社として輩出してきたが、自分たちがもつリソースには限界がある。今後は資本関係がなくても社会起業家がチャレンジでき、失敗してもまた再チャレンジできるエコシステムの形成をしていきたい」と語り、来年ローンチ予定のサービスがあることを示唆した。
また、長期的な目線での教育の重要性にも触れ、「標準化された教育ではなく1人ひとりが自分の生き様を考えるような仕組みが必要。自立して自己決定を行い、お互い助け合える社会にしたい。」と語る。(鈴木氏)

八子氏は最後に「登壇者のお話を聞いて共通する点は、社会課題に対して今までより視座を上げて向き合っていること、一社だけではなく周囲をどう巻き込むのか、そして”個”にも手を差し伸べながら、先読みしながら動こうとしていること。今後も様々な社会課題に対する官・民の取り組みや、グローバルな取り組みが生まれてくることに期待したい」とまとめた。

【登壇者】
・DXYZ株式会社/プロパティエージェント株式会社 代表取締役社長 中西 聖氏
・一般社団法人Public Meets Innovation 代表理事 石山 アンジュ氏
・株式会社ボーダレス・ジャパン 代表取締役副社長 鈴木 雅剛氏
・株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役社長 八子 知礼(ファシリテーター)