Conference X in 東京 2022

【イベントレポート】Conference X in 東京2022

“Industrial Transformations”
~日本の産業構造を変革せよ~

2022年12月9日 (金) 13:00 START
ベルサール御成門タワー3階
【開催概要】
日時:2022年12月9日(金)13:00-17:30(17:30名刺交換会)
主催:株式会社INDUSTRIAL-X
場所:ベルサール御成門タワー
参加方法及び費用:名刺交換会つき会場参加(3,000円)オンライン視聴(無料:事前登録制)
対象:DX導入に興味関心のある方、DXの最新情報を知りたい方、DX導入推進を検討中の事業会社様、ご担当者様
協賛:ウイングアーク1st株式会社、株式会社コアコンセプト・テクノロジー、Asana Japan、株式会社ジョイゾー
メディアパートナー:JDIR、JBpress、TECH+、クロスメディア・パブリッシング
協力:一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会
セッション 1

DXのその先の未来“産業の構造が変わる”

セッション1特別公演

本セッションでは、デジタルがもたらした産業構造の変化から、いま求められるべき企業の変革について具体的な事例を交えながら講演いただきました。

デジタル技術による変革(DX)

デジタル技術による変革
新しいテクノロジーで、どのように新しい産業・社会を作っていくのでしょうか。
私はよく、既存の手段(スライドの四角)を使って、実現する仕組み(スライドの三角)によって、目的(スライドの丸)を実現する、と説明します。

新しい丸(目的)を新しい三角(テクノロジー)を使って、どのように実現していくか。
新しい丸を、デジタルを活用して達成できるようになるから、DX(デジタルトランスフォーメーション)と表現できると思います。

よく目指す姿(新たな丸)がわからないという話がありますが、そのためにはまず四角(手段)をよく理解することも重要です。
適切な丸(目的)の設定は難しく、丸を設定するために四角のこともわからないといけないし、それをどう組み合わせたら実現できそうかという三角もわかっていないといけない。
丸を設定するには、四角と三角がわかっていないといけないというのが、世の中の新しい変革の難しさと言えるのではないでしょうか。

これからのデジタル時代、4つの特徴

①自律進化とつながる社会=Society5.0
②設計対象範囲の変化
③急速な変化への対応
④説明責任が求められるシステム特性の増加

①自律進化とつながる社会=Society5.0

国は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させた人間中心の社会を作ることを提唱しています。

Society4.0はサイバーとフィジカルの間に人が介在していることを示し、例えば病院に行きたいとき、人が住所を入力すると、サイバー上で経路が検索され、経路が提示される。最終的に車を運転するのは人です。
Society5.0は、サイバーとフィジカルの間に、人の介在を不要とするものを示します。例えば病院に行きたいとき、予約時間になると車が自動的に迎えに来て、自動的に人を乗せて病院に行ってくれる。人は介在しません。

病院、モビリティのそれぞれにおいてサイバーとフィジカルが融合し、お互いにつながる。これが起きると、フィジカル空間上がまるで連動しているかのようになります。このように、全く異なる性質のシステムとシステムがつながっていくことを、SoS (System of Systems)といいます。

SoSの課題の一つとして挙げられるのが、「社会のルール整備」です。システムのつながりが広範囲に広がることで、単なるハードウェア、ソフトウェア単位の話ではなくなるため、有事の場合の対処法、法整備など社会のルールも併せてデザインする必要があります。

②設計対象範囲の変化

例えば、電気自動車。これまで注力されてきたのは電気自動車の仕組みの設計でした。ですが実際に社会に実装するとなると、仕組みの設計にとどまらず、インフラの設計も必要になってきます。先に述べましたが、これには政策や法制度が不足しているという現実もあります。

現在、自動運転はレベル3が高速道路で実証実験をしました。自動運転において問題になるのが「ドライバーそれぞれのレベル」です。なぜかというと、車が自動で対処できない時に、ドライバーはそれを制御する必要があります。ですが、車の機能を熟知しているドライバーなら問題なく対応できますが、あまり運転に自信のないような人の場合、これと同じようにはいきません。

このような場合のルール整備としては「自動運転専用の免許の発行」ということも一つの手段かもしれません。有事の際、制御権を持った人が事故のないように自身で対応するための訓練などを受講し、自動運転車の利用が許されることになります。ただ、自動車メーカーが技術の開発にとどまらず、人間の行動を律するような法の範囲にまで乗り出すことはどうなのでしょうか?ここにはもっと本質的な議論が必要だと感じます。

これまで存在しなかったものを生活の当たり前にするためには、対象物の開発と併せて、それが社会に浸透していくための土壌も一緒に設計していくことが求められ、それが複雑な課題であると言えるのではないでしょうか。

法とアーキテクチャ

法学者の話に「法とアーキテクチャ」というものがあります。法律と設計は、実は同じことをやっている。両方とも、人の行動を律することができる。というものです。人の自由をアーキテクチャでどこまで阻害してもいいのか、議論されています。

③急速な変化への対応

VUCAワールド

八子さんが書籍「DX CX SX」でも書いているように、急激な変化が起きています。
古い言葉で、VUCA(不確実性が高く将来の予測が困難な状況)と表現されますが、
昔は長い期間、現状が続くという前提がありましたが、今や、どんどんどんどん変化していくので、今の延長上に未来があるとは思えないですよね。
いままで、我々は経験に基づき、さまざまな事象に対処してきました。ですが、未来が予測できないから、難しいわけです。今の延長線上に未来がないと、経験だけで対応できず、アップデートし続けることが必要になります。

④説明責任が求められるシステム特性の増加

ilities重要性が急増
我々の分野では、「ilities」(イリティーズ)というちょっと不思議な言葉を使っています。
「イリティーズ」とは、システム特性と言われるもので、「システム全体で見ないと分からないもの」を指しています。

アメリカで広がったものになりますが、なぜ「ilities」と言われているかというと、元々はリライアビリティとか、アベイラビリティ、メンテナビリティ、英語の単語の後ろに「イリティ」という単語がつくのが多いからと言われています。

システム全体で見ないと評価ができない、という観点から言うと、セキュリティやセイフティも「イリティーズ」に含まれています。古くからある、クオリティやセイフティ、リライアビリティみたいなものもこれに含まれます。最近ではモジュラリティとか、インターオペラビリティとかメンテナビリティ、サスティナビリティ・・・このようにイリティーズがどんどん増えてきています。

これらの言葉が増えてきていることの背景には「システム全体で捉えることの重要性が増してきている」と言うことが考えられます。まさにサスティナビリティがそこになりますが、これらの説明責任が企業経営の義務として求められるようになってきました。

これからのデジタル時代の特徴

さまざまなものがつながって、プロダクトだけではなくて、法律やインフラも考えないといけない。AIによる進化と、これまでつながっていなかったものがつながっていく社会。
システム特性、安全性、セキュリティ、サスティナビリティなど、モノを生み出す側が考慮しなければならないことも増えてきています。作り手側からは、辛い時代ですが、そうやることによって、今までなかった価値が提供できるようになるのではないでしょうか。

Society5.0

どんどん変化するものに対して、どうやって対応したらいいかを提唱し始めたのは、
ソニーコンピュータサイエンス研究所を設立した社長、所眞理雄先生であり、彼がリーダーとなって文部科学省の試験を7年間実施した成果を基に作られた「DEOS」(ディオス)という概念があります。
いくら OSを作っても、環境が変わってしまうと、作ったOSは悪くないが役に立たなくなるという事象が発生します。所先生がOSからガラリと方向転換して作ったのが、このDEOS(Dependability Engineering for Open System)という概念です。
ディペンダビリティとは、総合信頼性と辞書で訳されています。
セキュリティやセイフティ、コルティの全体の総合的概念として使われているものです。

幅広く変化をとらえて対応し、合意形成を進める
スライドの赤いループ、青いループ、これが肝になります。

DEOSサイクルというのですが、内側の赤いサイクルは傷害が起きた時に直すという当たり前のサイクル。青いサイクルは、外部環境が変化したら、修正が必要なサイクルです。

環境の変化が早くなると、この二重ループのサイクルを持たないといけなくなることを提唱したのがこのDEOSで、さまざまなステークホルダーに影響が起こる場合に、合意を得ながら進めるというのが、D-CASEです。
設計者が設計したものに、説明責任を果たさないといけないため、DEOSとD-CASEを基に、変化に対応させようということを日本が考え出し、この考え方は世界からも注目されています。

そもそも、ビジネスモデルが変わるとルーティーンが変わるように、DXはCX(コーポレートトランスフォーメーション)に直結しています。それをSoSで考えた場合にはさらに難しくなります。

なぜなら企業単独ではなくて、複数企業(業界)が同時に学び、連動しなければならないからです。これが、SX(ソーシャルトランスフォーメーション)となります。

これから生まれてくる新市場

近い将来の宇宙空間

八子さんのオープニングセッションに、スペースツインの話もありましたので、私の専門の宇宙の話をします。皆さん、宇宙は遠いと思っていらっしゃいませんか?
宇宙政策をやっている我々からすると、近い将来なんです。

2040年に何人が月にいると想定されているか?
少なくとも100人です。多い統計で1000人です。1000人の一般人が月に行くんです。それが2040年。もうすぐなんですよね。2050年になると、さらに1桁上がります。

宇宙空間に人が滞在すると何が起きるか。

いまは訓練された特殊な人たちが行くので、特殊な生活の仕方でいいのですが、一般人が滞在するとなると、いま地球上で必要な全ての物が必要となります。
そのため、今の現状の環境では全く足りないんですよね。

まさにデジタルツインを使って、シュミレーションと検討をするのですが、宇宙空間に人がいることをシュミレーションすることはかなり高度です。なぜなら、地球と宇宙空間では環境が全然違うからです。宇宙空間にいくと無重力で、月にいくと、6分の1重力です。

状況が変わると何が変わるか。
重力なんていうのは、みんな当たり前のように思っているかもしれませんが、無重力で動かない物は、沢山あります。

例えば、点滴が動かないんです。6分の1重力でも、無重力でも、ありとあらゆる物が動かないんです。

例えばコップに水を汲んだら(無重力は汲めないですが)6分の1重力だと、いまの地球上のほとんどのコップだとこぼれます。何もできてない。それら全部がこれからのマーケットになって、シュミレーションするとどんな感じになるか…
ということが、だんだんわかってくるわけです。

人工衛星データの活用拡大

他にも、地球上で宇宙が活用されているものはたくさんあります。
人工衛星で宇宙から地球を見ると、例えば、石油の備蓄タンクは、フローティングルーフで、上下するので、ルーフが下がると、影が大きくなるんです。
影の面積から高さを推定して、高さから残量を推定して、微変動からどれだけ石油が減っているかわかるから、近い将来の石油価格が予測できます。

あるいはスーパーの駐車場に車が何台停まっているか、先週、先月、昨年からの増減を出して、業績予測に使います。
人工衛星の使い方というのは、昔からたくさんありますが、何をしているかというと、人工衛星のデータを、他のさまざまなデータに組み合わせることで、各々にとって有益な情報に転換しているんです。
このニーズ(欲しい情報)とシーズ(取得データ)の間をホッピングすることによって、新しいビジネスにする。

これは衛生データだけではなく、地上のデータビジネスも全く同じです。
一つのデータをダイレクトに活用することは誰でも予測できますが、複数のデータを掛け合わせ、転換するから予測が難しい。我々もそれを加速するような手法を作ったりしています。

まとめ

まとめ

時代がどんどん変わってきていて、新しい時代に対応するには、学びながら先に進んでいくとか、予想しながら先に進んでいくしかなくなってくるんですね。
そうなってくると、デジタルツインのようなテクノロジーがないと、我々はちょっと先のことすら分からない時代になってきている。
これが地上の先にはブルーオーシャンの宇宙があるので、皆さんには、地球上に留まることなく是非宇宙のところまで行ってもらえればなぁと思っています。

八子と白坂先生のクロストーク

八子:元々は、SoSは色々なものがつながるところから始まって、繋がれば繋がるほど、それが変化を助長する。アカデミックの領域で語られていることが、ビジネスの領域でも適用されてきていることが非常によくわかります。
なおかつ、それが地球上に留まることなく、宇宙の技術として普通に活用されようとしているのですね。

白坂先生:先ほども述べましたが、月に滞在する人の人数は、日本の一番少ない予想で、100人。海外の多い予想では1000人。ちなみに、2050年には、1桁上がるから、10000人。さらに宇宙空間への滞在においては更に1桁多く10万人なんです。
2040年に、宇宙ステーション滞在(前澤氏みたいなこと)をやる人が、1万人いると言われています。宇宙って、皆さん遠いイメージがあると思うんですけれども。
我々、宇宙政策をやっている人間は、とにかくもう急がないと、ヤバいと。

これだけブルーオーシャンなマーケットが、一瞬で生まれ始めているわけですね。
ビジネスのマーケットとしての宇宙もありますし、地球上でそれをやる人たちが、自分たちの組織のガバナンスを考えるにも、デジタルシュミレーションが不可欠です。

デジタルツインが当たり前のようにないと、考える手段を一つ失う。
電卓を持っている人と、持っていない人が計算で戦うようなものです。
そんなことを起こしてはいけないので、いかに早く、これを考えていくかが、重要になってきているのです。

八子:通常のフィードバックループ、通常のデジタルツインがくるくる回っていくだけでなく、その外を取り囲む環境すらもデジタルツインの外をシュミレーションとして回していく。しかもそれが、CX(コーポレートトランスフォーメーション)のなかのガバナンスの仕組みとして、基本中の基本になってくる。奇妙にも、ESG経営のトレンドとも呼応してますよね。

これから、世界が変わってくるというところを白坂先生にお話しいただきましたけれども、いかがだったでしょうか?
ビジネスの可能性、将来の可能性、産業構造変革の可能性を感じていただけたんじゃないかなと思います。

「DXのその先の未来“産業の構造が変わる”」

【登壇者】
・慶應義塾大学大学院 教授 白坂 成功 氏
・< クロストーク登壇 >株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役CEO 八子 知礼
セッション 2

DXで目指す”デジタルツイン”の世界

セッション2 DXで目指す”デジタルツイン”の世界
まずDXで目指すべき姿として、”デジタルツイン”の世界を例に挙げ、どのような企業に変革していくべきなのか。特に、製造・建設の変革に注力する3名が討議します。

業界の課題感

製造業の戦い方は転換点に

ミスミ・吉田氏:製造業は日本の基幹産業であり国際競争力も高い、一方で、労働生産性は下降傾向となっている。1980年代は、多くの労働力(生産年齢人口)と長時間労働で総労働時間が増加していたが、現在は人口減少とワークライフバランスや働き方改革により、最適化されていて今後も減り続けていく。このように、少ない労働時間の中で、昔以上の成果を出していく必要がある。労働の「量」から「質」へ大きく転換をしていかないと、これからの製造業が厳しくなると危機感を持っている。

清水建設・及川氏:建設業は、オリンピック需要などもあったので、2024年まで36協定を外れています。その上、残業ができなくなり深刻な人手不足と高齢化。55歳以上が36%を占めているので、5年後には働き手もいなくなってくる。さらに、高層ビルなど案件の大型化。残業ができない、高齢化で人がいない、その中で大きなものを作らないといけない。デジタルをいかに使っていくかが直近の課題です。

課題に対する世間の動き

清水建設・及川氏:施工現場には工期があります。工期は厳守のため、現場で一番偉い所長にデジタルを使いもっと効率化しましょうと話すと、「忙しい(からできない)」と返されてしまう。一方で、私の言葉で言うと「デジタル積極者」という人がいます。
所長が、40代半ばぐらいの人だと、もっとデジタルをもっと使いこなしていきたいという方は協力的で活性化してきています。

ミスミ吉田氏:製造業もかなりデジタル化が進んでいる側面と、実はまだまだのところがあります。設計→調達→製造→販売 という、バリューチェーン(価値連鎖)の中で、昔に比べたらデジタル化は進展しています。ソフトウェアで設計を行うのが、グローバルスタンダード。製造も昔は人海戦術でしたが、現在はロボットになってきていて、ファクトリーオートメーションも進んできています。

販売も、コロナにより、オンライン商談が進んできていますが、調達領域は、いまだに紙・FAXでのやり取りが行われています。製造業におけるFAX利用率98%。
まだまだ、アナログなやり方が残っています。

設計はデジタルで行われているので、設計から調達も含めて、デジタルで一気通貫に流れていけば、非常に効率的に流れていきます。

では、調達現場で何が起きているか。
部品購入の際に、紙の図面が必要となり、5〜10社の企業さんに相見積もりを取る。
例えば、1500点の部品を調達する。この調達というプロセスだけで、3−4ヶ月(1000時間)かかってしまっているのが、調達のリアルです。

製造業の時間が減少する中で、調達の間接コストは、年間2兆円以上と言われています。ものづくりにおける最大の価値は、時間の創出だと思っています。

現状の取組事例

ミスミ・吉田氏:調達領域が一番アナログになってしまっていて、調達をDXすることで、製造業全体のバリューチェーンが早くなると捉えています。その中で、冒頭にTVコマーシャルで見ていただいた弊社の「meviy(メビー)」があります。

2つのイノベーションをこのクラウドサービスに埋め込んでいます。

デジタルで設計しているので、デジタルデータのまま、このクラウドサービスにアップロードすると、AIが自動で形状を認識して、価格と納期をその場で回答する仕組みを埋め込んでいます。

もう一つは、ものづくり側の革新。ミスミは、3000万点の商品を日々受注して生産しています。完全にデジタルものづくりをしています。アップロードした設計データから、工作機械を動かすプログラムを自動で生成して、受注と同時に生産がスタートしていく。

見積もり→生産→検査まで、ものが自動で流れ、即時見積もり最短1日出荷。世界的にも、ユニークで時間価値の高いサービスを提供し、画期的な時間価値を提供しています。
「meviy」を使うと、いままでの時間の90%削減できます。

つまり、900時間生まれます。生まれた900時間を使って、人間にしかできない、考える業務やより良い設計だとかに時間を使ってほしい。

「meviy」は、世界5極(ヨーロッパ・中国・アジア・日本・アメリカ)の労働生産性改革、時間創出を目下取り組んでいます。コアコンセプトテクノロジー(以下、CCT)さんと一緒にIT関連の合弁会社「DTダイナミクス」を作って、その開発を加速していきます。

複雑化していく、グローバルのVoC(お客様の声)をいかに迅速に開発にフィードバックしていくか。ここが本当に勝負になると思っています。ものづくりに時間を提供することで、人間にしかできない創造性を発揮していただき、よりよい製品が生まれることで、エンドユーザーさんの笑顔をつくっていきたい。
これが、「meivy」のミッションとして、DXに取り組んでいる状況となります。

清水建設・及川氏:土木と工場建設の2つの最先端DX事例をご紹介します。
土木は、新東名高速の川西工事です。国土交通省がやっている、i-construction大賞で「優秀賞」を受賞した事例です。例えば、山を削る現場に隣接した場所で、実際の高速道路は、ものすごい勢いで多くの車が走っています。

真ん中のクレーン車は、パイプラインをつけていく工事をしています。
これは、横で車がビュンビュン走っているなか、パイプを持ち上げてクレーンを動かすんですが、操作ミスで、強風でぶつかってしまったら、めちゃくちゃヤバいことになりますよね。

これを現実世界で、「危ない危ない」とか、トランシーバーでやっても遅いので、デジタルツインでやっています。(デジタルツインの画面を見せて)先程と、ほぼほぼ一緒ですよね。

もう一つ。クレーンを操作する達人だとか、経験豊富な匠(たくみ)な人が、そこにいないことがあります。いま、現場は、川西工事ですが、その時に、外環に匠な人がいたり、本社に匠な人がいた場合、さっきのデジタル空間をVRで入っていくことができます。
相手はアバターで出てくるんですね。

まさに画面だけじゃなくて、VRの世界で、情報共有しながら確認することも、デジタルツイン上で、ほぼほぼ出来ているという事例になります。

こちらは、GROWING FACTORYです。
私も1年前、清水にきてビックリしたんですが、工場の建屋の建屋の他に、清水建設は工場の中の製造業の装置を手配して設置したり、その上に載せるアプリケーション、それも全部ワンストップで、お客さまに提供しています。明日からものが作れるということです。これこそまさに、DXです。

現状の取組事例

(デモ画面を見せながら)CGじゃないんです。
いま、私はマウスで動かしているんですけど、こういう風に自分の見たい角度で、1階と2階を広げて見ることができます。

例えば原材料がトラックに詰め込まれてトラックから降ろされて、それがどういうラインを通ってどういう風に作り込まれていくかを、デジタル上で工場が建つ前にシュミレーションすることが可能になってきています。

キラキラしてると言われたりもしますが、これを作った目的があります。
DXやデジタルツインを進めるポイントは、2つのアプローチがあると思います。

多くの方がやっているのが、左側のアプローチ。
どうやってチョコ停を直そうか効率化をしようかと、いまある課題に対して動きを変えたり、場合によってはIGTを活用するケースがあるかも知れません。

現状の取組事例

もう少し大上段のアプローチでありたい姿を描いて、バックキャスティングをしてやってくことがとても重要だと思っています。

清水にとってありたい姿って何?難しいですよね。
清水建設は2030年には、スマートイノベーションカンパニーに変わると宣言しています。

DX推進のポイントになる二面生

安心安全でレジリエントな社会を実現する。そして、インクルーシブ、サスティナブル。
離れた場所でも移動せずに、現地の工場を見ることができる、ということもあるかも知れません。

もう一つのポイントです。
単に生産性を求めるだけではなくって、清水建設はスマートイノベーションカンパニーと言われているので、それをすることで生産性も上がればインクルーシブにもなる。
もしくは、効率化ができることに対してサスティナブルもできるということです。

片面ではなくて両面となったときに、生産性とインクルーシブどちらが表ですか?
ほとんどは、やっぱり生産性が表面だと思うんです。
ただし、本来は右側のインクルーシブ、サスティナブルのありたい姿から選んできた結果、裏面で生産性・効率化になっていくように、そういう風に変わらないといけない。
ありたい姿って、半年後、1年後にできるかといったらそうじゃなくて、もうちょっと時間がかかるんですね。

清水建設は、このようなデジタルツインをやってるんですが、これ完成していません。
センサーをつけないといけない、5Gを入れないといけない。
清水建設だけではできないので、一緒にこういう姿を実現できる企業ともどんどんつながっていきたいと思っています。

「meivy」は、実際にどのように出来上がってきたものなのでしょうか?

ミスミ・吉田氏:「meivy」も完全にバックキャスティングだったんですよね。
ミッションは、ものづくりに「想像」と「笑顔」だと決めてました。

いま、ものづくり業界、時間不足、人手不足のなか、調達の領域が一番悪さしている。その時に思いついたコンセプトが、ものすごく安直ですが、せっかく3Dでやってるんだから、その3Dデータのままアップロードすると、AIが自動で認識して、価格と納期をその場で出して、デジタルモノづくりで翌日届く。
そんな世界ができたらものすごいよね!っていうのを、2013年頃、構想したんですよね。

これが一番時間を生み出す、一番の源泉なんじゃないかという話をしたら、このサービスコンセプトでいきたいよねと。じゃあそこからどうやって実現していくかという、逆算。
そこから先が、地獄の苦しみではあるんですが(笑)

CCT・田口氏:まず、スタートラインに立つためには、ありたい姿を思い描くことが大切
ということが、共通している話ですね。
最初のトピックスで課題を話したけれども、ありたい未来を考えて、そこからバックキャスティングして、いま何をしなければならないのかということで、得てる解がそれぞれのソリューションであると理解しました。
今後、スタートラインに立つためには、今後リーダーはどのようなことに着手するといいと思いますか?

清水建設・及川氏:私の持論としては、ありたい姿、未来っていうのは簡単だけど、どういうのかわからないので動画でもいいので、目に見えるビジョンを作ること。
私は「これだよね」って、目に見えるビジョンを作ることが最初だと思っています。

CCT・田口氏:自分たちがほしいというマジョリティーをとれば、そういう社会に変わっていくということなんだと思います。ロボットがあるような社会を皆んなが望めば、そういう風に変わっていくんでしょうし。自動車も空を飛ぶようになっていけば、きっとそういう社会に合わせたインフラが仕上がっていくんでしょうね。
これは吉田さんに伺いたいんですが、リーダーがスタートラインに立つにはどうしたらいいでしょうか?

ミスミ・吉田氏:大前提として、DXは目的ではなくて、あくまでも手段です。そのため、新しい価値を創造していくなかで、一番大切なのは、いきなり課題を見つけて、それをどうやって解決していくかという「How」に入らずに、「Why」をつきつめる。
そこが重要なポイントだと思いますし、我々も徹底的にそこを議論しました。

それを実際に実現していくフェーズにあたって、DXや新規事業だったり、自社にそのケイパビリティってないと思うんです。その時に、仲間集めをするというプロセスが待ってると思うんですが、そこで大事なのが「Why」だと思います。

「なぜ我々はこれをやらなければならないのか」、そこが軸としてしっかりしていると、世界中のいろんなカルチャーの違う人たちが、そこに共感していただける。
それ面白いね、それをやる価値があるよね、そういう形でどんどんどんどん仲間が増えていきます。

セッション2 DXで目指す”デジタルツイン”の世界

【登壇者】
・清水建設株式会社 デジタル戦略推進室 DX推進部 部長 兼 エバンジェリスト 及川 洋光 氏
・株式会社ミスミグループ本社 常務執行役員 兼 ID企業体 企業体社長 吉田 光伸 氏
・< モデレータ > 株式会社コアコンセプト・テクノロジー 取締役CTO 兼 マーケティング本部長 田口 紀成 氏
セッション 3

“データで見せる”企業の価値

“データで見せる”企業の価値

人事からIT部門への異動によりDXを推進する小林製薬・藤代氏、ソフトウェアエンジニアからマーケティングリーダーとなり会社として必要なことを越境してやっているLIXIL・安井氏のお2人と、勝つためのチームビルディングを強みとするウイングアーク1st(以下、WA)・森脇氏がモデレートします。

本日のセッションの全体像

データ活用と企業価値の関係

WA・森脇氏:ESG経営やカーボンニュートラルは、SCOPE1、SCOPE2、SCOPE3とあり、SCOPE3のところは、サプライヤーさんからも情報をもらわないといけなかったりします。結構大変じゃないですか?

LIXIL・安井氏:SCOPE3のところも見ています。我々はアルミニウムのものを作っています。アルミニウムは元々ボーキサイトからできていて、溶かして製品を作っています。我々の中では、アルミニウムを溶かすところに一番エネルギーを使っています。

我々がどのようにすると減らせるか考えると、アルミニウムのリサイクルをしっかりすること。リサイクルをすれば元々の原材料を使わなくて済みます。リサイクルで我々が溶かしてできることになるので、より減らしていくことができる。サプライチェーンのなかでどこにエネルギーが使われているか、しっかりデータとして出てくると、どこに注力したら良いかよくわかるのです。

小林製薬・藤代氏:弊社のブランド憲章は、「あったらいいなを形にする」です。消費者の方から、「なくてもいいよね」と言われてしまったら、我々は終わりです。
「他社さんでも、色々な物があるし、そもそも必需品じゃないから買わなくていいよね」と言われてしまうと、企業価値はガタガタになってしまう。

消費者の方から、「小林製薬がなくなってしまったら困る。御社の商品がないとうちは非常に困るんだ」と言ってもらえることが、最大の企業価値だと思っています。

弊社は、自分たちでマーケットを作ることをモットーにしているので、自分たちでマーケットを作るのに何が大事かというと、お客様のニーズ。お客さんが、何に困ってて、どんなことに腹立ってて、どんなことに不便を感じているか知ること。
これをきちんとキャッチして、解決する商品やサービスを出すのが最大の使命だと考えています。

データに紐づけると、結局お客様のお困りごとはデータに出てきます。

最近は、これだけSNSが発達してきたので、SNSのデータを分析して的確なお客様のお困りごとを見つけ出しています。あるいは、人では判断できなかったお困りごとをデジタルの力で導き出すことをやり出そうとしています。我々ITは、このような会社の戦略に添ってアイデアの創出し、出てきた商品の認知をしていただき、リピートしていただく。ここを目指してやっています。

IT部門の目指す姿

過去のホラーストーリーと現在について

LIXIL・安井氏:大手5社の住宅建材メーカー、設備メーカーが一緒になった会社です。6年前に入社して、本当に縦割で国内だけでも数百の営業拠点や工場があったので、この中で独自にそれぞれの物事が進められていると感じました。
個別最適の塊があらゆる組織で行われていて、IT的にはシステムが2000個ぐらいあり本当にカオスでした。

なぜこのようなことが起こるのかというと、基本的には、コミュニケーションなんです。隣に座っている人が何をしているかわからないぐらい、縦割りの状態で(隣の人の仕事が)分からないから尊重もできなかった。

私が過去に在籍していた会社では、社内SNSを中心に、離れていても仕事や趣味を繋いでコミュニケーションが取れる状況を作っていました。そのため、LIXILに入って一番最初にした大きなことは、社内を一つにするコミュニケーションプラットフォームを導入することでした。

meta社のWorkplaceを導入しました。従業員全員にアカウントがあり、今はそのうちの半分以上の2万人が毎日のように使っています。

SNSというとプライベートなコミュニケーションのように思われがちですが、会社のありとあらゆる業務のコミュニケーションです。メールやチャットも使いつつも、Workplaceの中で色んなやり取りが行われる状況を作りました。そうするとお互いのことが公開されるので、分かるようになっていきました。お互いへの理解、リスペクトもできてこれとこれって一緒にできるよねというのが広がっていきました。

こういうことによって、徐々にカルチャーのぶつかり合いがなくなってきて11年目を迎え漸くカルチャーの違いがなくなってきていると実感しています。

小林製薬・藤城氏:LIXILさんと違って、現在進行形のお話です。弊社は、新しい物を世の中にどんどん出していっているので、重要な部署はマーケティングです。マーケティング部門が自分たちでデータを分析して、そこから何らかの結論を導き出そうという風潮が全くありませんでした。例えば、データは広告代理店とかに丸投げして、その結果を元にプランを作っていたんです。

私から言わせると、利害関係者にデータを作らせたら、絶対自分たちに都合の良いデータ作ってるはずなんですよね。それが当たり前という風潮があって、これを変えていかないといけないと強く思ったのが2〜3年ぐらい前です。

データは社内に山ほどあるんですが全部サイロ化していて、要はつながっていませんでした。ここをきちんと一元化してやっていかないと、まともなデータの分析もできないしそこから正しい結論を導き出すこともできないだろうなと。

今は、それを日々どうしようか奮闘しています。

WA・森脇氏:リスキリングに力を入れてやってますよね?

小林製薬・藤城氏:システム内製化と別のきっかけで、弊社の社長がセミナーを受けて、リスキリングの話を聞いて、「トップからやろう」ということでした。
現在、経営会議のメンバーに対して、月2回、リスキリングの資料を作って、それを説明しています。

2週間前に経営陣に対して課題を出して、当日指名された役員はその課題を発表します。ちょうど1年ぐらい前から、割と緊張感を持ってやってくれています。
社長が「社員からやろう」ではなくて、「経営陣自らやろう」というのが大したものだと感じました。

WA・森脇氏:LIXILさんも、何かありますか?

LIXIL・安井氏:弊社も、ローコードツール、ノーコードツール広く導入していますが、ローコードツールは、Google社のAppSheetを導入してます。

一番最初スタートした時、役員からスタートしました。
2ヶ月ぐらいで自分で役に立ちそうなアイデアを考えて、アプリを作ってもらいました。
もちろんサポート人材もいますが、原則ご自身て作ってもらいましたね。それで役員の皆さんに作ってきてもらって、優秀なものは表彰してというのをやりました。
それをやると役員が「俺でもできたんだから、お前らできるだろ」と言って、その下の人間もどんどん作るようになっていきました。

トライアルで作ったアプリも含めて、1万5000を超えるアプリがAppSheetのプラットフォーム上にあって、800ぐらいが、本番で稼働しています。
トップがやるって、すごく大事だなということですよね。

目指すべき姿のために今考えていること

小林製薬・藤城氏:ユニークな商品を作るということは、デジタル化する以前に人の気持ちの機微をわかっていることが重要です。それは人間でなければできないところなので、それをデジタルと掛け合わせて最大化させたいと考えています。

LIXIL・安井氏:デジタルは、お客様の声のところで生かしています。
製品開発にも生かしますが性能や機能は他社さんと差がないなかで、どこで差別化するかというと製品のサポートや生活を豊かにするところです。

WA・森脇氏:そろそろ終了時間ですが、話しておきたかったことはありますか?

小林製薬・藤城氏:会社紹介の補足として、弊社30年前から全社員参加型経営を謳っています。従業員一人一人が経営者の感覚で、仕事をしましょうとしています。
それがものづくりにも生きていまして、全社員が、新商品のアイデアを出す習慣があって年間何万件という提案が出ます。

この提案のブラッシュアップをして、データを全社員が正しく分析し、全社員がAIを活用できるようにしようと。市民BIとかAIとか。次の中期経営計画で謳っています。
これをITとして、推進していきたいと思っています。これはまだ夢ですが、全社員がAIを普通に使いこなしている。あるいはちゃんと使えている状態にしていきたいと思います。

LIXIL・安井氏:AIの話が出たのでAIに関連して。データ活用では、LIXILデータプラットフォームをGoogleのBigQueryを中心に、ありとあらゆるデータをここに集めて皆んなが分析できるようにしましょうというプラットフォームを出してます。

先程の社内SNSの中に、これのサポートグループを作っていて、1台のbotがいます。何か質問すると、答えてくれます。いわゆるサポートのbotと違って裏側はオープンAIが出してるライブラリを使っていて、文章も完全に自動生成で出してくるんです。
時々変な応答をするんですが、一方で質問に対してめちゃくちゃ的確な応答をすることもあります。これにすごく未来を感じています。
まだまだお客様に出せるレベルではないし、社員にも十分に正しい答えを出せていないところもありますが。

でも、その一端を見ることができているのは、これから先AIを活用してできることの一つなんじゃないかなぁと思います。

WA・森脇氏:最後にメッセージをお願いします。

LIXIL・安井氏:単に売上や利益が上がることのみに留まらず、これからプラスアルファが求められるようになっています。環境問題、ESGをはじめ、データをどのように活用して、企業価値に繋げるかすごく重要だと思っています。皆さんのなかでも、会社にあるデータというのを、どう見せていって、どう分析したら将来につながるのか、考える一助になればいいと思っています。

小林製薬・藤城氏:企業価値というものは高めるのはすごく難しいのですが、下げるのは結構簡単なんです。企業価値を高めるのも下げるのも、従業員だと思います。企業価値は、一部の従業員が上げたり下げたりするものではないと思います。
全員が、小林製薬なら小林製薬の企業価値を上げていこうと思って取り組んでいかないと、なかなか企業価値は上がらないもので、下手すると簡単に下がります。

こういうところをデータを使いながら、正しい分析をして、正しい判断をして、お客様に最適な解をご提供することがすごく重要だと考えています。

次期IT部門中計

セッション3 「“データで見せる”企業の価値 」

【登壇者】
・小林製薬株式会社 グループ統括本社 業務改革センター・センター長 藤城 克也 氏
・株式会社LIXIL 常務役員 Marketing部門 リーダー 安井 卓 氏
・< モデレータ > ウイングアーク1st株式会社 執行役員 営業本部 本部長 森脇 匡紀 氏
セッション 4

全体最適観点から発想する事業の“パラダイムシフト”

全体最適観点から発想する事業の“パラダイムシフト”

本セッションは、何もないところに新たなものを生み出すという視点から一旦離れ、市場全体を俯瞰し何と何を繋ぐと需要が満たされるのか、新たなビジネスが生まれるのか、という視点で事業を”パラダイムシフト”する発想やスキル人材について討議します。

導入・各社の取組紹介

竹林氏:パラダイムシフトをやるときに、とっても重要になってくるのが、視座・視点を変えていくことです。今まで通りのQCD(品質Quality・コストCost・納期Delivery)同じ思考パターンで、同じように頑張ろうとやってると、ヘトヘトになってくるんです。これから勝つために新しい軸が必要です。パラダイムシフト、全体最適を見て、新しい軸をどうズラしていくのかをお話ししていきたいと思います。

私がやってきた事例は、自動改札機を作ってきました。ICカード化で、従来の駅員さんを楽させてあげることは、終わったんですね。じゃあ軸をどうやってズラそうかって。
駅って、今までは、「電車に乗る入り口」だったのを、駅ってひょっとしたら「街への入り口」なのでは?という軸の変換をしました。例えば、駅が「街への入り口」だとしたら、誰がどこの駅で降りたかわかるから、「1to1マーケティングができる」「駅前のコンビニのクーポン送れる」、実は20年ぐらい前にそんなアイデアを出しました。例えば、子供さんが帰ってきた時に、お母さんにメールを配信する。
こういうサービスが、自動改札機というデジタルプラットフォームに出てくる。
そこで、DXってなんですかってよく聞かれるんですけど、「駅を街の入り口にする」というのが、トランスフォーメーション。
じゃあデジタルって何ですか?
いままでの自動改札機の仕組みが、データを集める仕組みになってきました。
これでデジタルトランスフォーメーションなんです。

その時に、デジタルは語るのですが、何をトランスフォーメーションしてきましたかというのが、とっても重要になってくると思います。
私自身が今までやってきて俯瞰してものごとを見る上で一番重要なことは何かなと思ったら、「抽象と具体」です。
そもそも駅って、何だろうな。新宿駅の中から外を見た時に、100万人の人が新宿の街に出ていく。
ひょっとしたら駅っていうのは、上位概念で見たら、街の入口だったのではないか。
というような発想の転換というのが、とても重要かなというところで、自己紹介を終わりにさせていただきます。

竹林氏:ジョーシスの城戸さんお願いします。
ジョーシス・城戸氏:ジョーシスというのは、その名の通り、企業の情報システム部門さん向けのクラウドサービスを提供している会社になっています。ラクスル株式会社の4つ目の新規事業として立ち上がり、成長してきたので、ジョーシス株式会社と分社化したというところです。皆様の会社を支えているITインフラって、実はDXが進んでいないんじゃないかというところに目をつけました。
いわゆる企業の情報システム部門の方々って、実際は大企業になればなるほどオンプレミスのシステムの中で動いていて、中のオペレーションは意外とアナログであると。

そういうのは、業界問わず、大企業、中小企業、スタートアップ…と、企業の規模を問わず同じような構造なんです。そういうところをDXしていくことによって、皆さまがやっているような攻めのDXのドライブをさせていく真の意味でのエンパワーメントしていくというのが、我々の目指していくところです。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる。」というのは、ラクスルグループ全体のミッションでして、仕組みとして業界を捉えた時に、何を変えると世界はもっと良くなるというところを強烈に信じながら生まれた事業でもあります。
そもそも、誰が何をどのぐらいSaaSサービスを使っていて、そのアカウント本当に使われているんだっけ?一人当たり、いくらかかってるんだっけ?というような投資判断にも役立つような情報っていうのが、なかなか把握できてないところをしっかり可視化することによって、効率化をしていきます。
ジョーシスというクラウドサービスのエンジニアは、全員インドで、オフショアで委託しているのではなくて、自社のインド拠点がありまして、そちらに40人ぐらいいます。

事業を生み出すにあたって大事にしている思考として、「産業には重力が働く」というものがあります。業界を俯瞰して見ていくと、必ず歪みが発生していると思います。その歪みを是正する方向に流れていくというのは誰も抗えないので、そういった歪みをとらえてそれを先んじた手を打てるようなビジネスが非常に大きなビジネスになるのかなというのをラクスルグループ全体で大切にしているところです。

akippa・金谷氏:akippaは、2014年から使っていない空きスペースを駐車場として簡単に時間貸しできるマーケットプレイスです。分かりやすく言うと、Airbnbの駐車場版のようなサービスです。現在は、35,000件以上が利用可能な駐車場として、登録されています。会員数は、累計300万人を突破しました。

元々は、インターネットの知識が全くない中で始めた事業ですが、一番大切にしたところは「拡散的思考ができる人のみでスタートする」ことでした。最初は、論理的思考で考える人は入れずに固定概念に縛られない、こんなことしたら法律的にアウトじゃない?と言うような人は存在しないぐらいのチームで、5〜6個サービスが出てきました。
「いいね、いいね」「そんなのあったら、絶対使うよ」みたいな感じで広がっていって、その後に論理的思考をする人を入れて収束的思考で絞ってもらうというようなことを大事にしてきました。

ジョーシス・城戸氏:ジョーシスがなぜ生まれたのか。
色んな企業さんさんが、コロナのタイミングでマーケティングなど、コストカットしていきました。ITに関するコストだけがどうしても落とせないことがありました。例えば、パソコンを調達して初期設定をキッティングするとか、いわゆる情報システム部門のヘルプデスクの業務などのアウトソースのコストがどうしても減らせない。
他の部門は、あらゆるコストを削っているのに、このコストだけ削れないっておかしいだろと。

いきなり俯瞰して歪みはどこだと探しても難しいと思うんですが、産業構造を捉えていくなかで構造的に依存しているところを、変えていく仕組みができるんじゃないのか。目の前のちょっとした違和感を見ながら、歪みを見ていくのが大事かなと思います。

産業には重力が働く

竹林氏:イチから事業を考える上でとっても大事なキーワードになってます。一つは、ラクスルからジョーシスが生まれるなかで、ピラミッド構造が作る歪みや、先程のどうしても工数が落ちないところ。
実際に、ピラミッド構造の中で、どの辺に歪みがあり事業がおかしくなっているのか。
鳥の目と虫の目、どっちの目でも見ているように、感じました。

ジョーシス・城戸氏:(鳥の目と虫の目を)行ったり来たりすることが重要です。一度きりではなく、何度も繰り返しながら、かつ、それが自分の主観にならないように色んな人に話を聞く。

竹林氏:鳥の目と虫の目のバランスで回っていくのかな。それがいまの歪みのところになってくるイメージですか。

ジョーシス・城戸氏:しーさん(竹林氏のあだ名)が言っていた「具体と抽象」の話と同じだという気がします。

竹林氏:抽象度の高いところと具体的にちょっとやりにくそう。この2つのポイントを押さえておくと、新しいパラダイムに出てくるヒントが生まれてくるという感じですね。
次、金谷さん、「拡散的思考ができる人のみでスタートする」というのを聞かせていただけますか?
akippaのアイデアが出るまで200個ぐらいアイデア出たっていうのも聞いてるんですが、この拡散的思考も含めてビジネス展開できたのかなというところをお聞かせください。

akippa・金谷氏:まず、akippaを作る前に何がしたいのかミッションを作るところから始めました。僕が、偶然自宅の電気が使えない経験をしたことから、電気みたいに必要不可欠なサービスを作りたいと思い、「”なくてはならぬ”をつくる」というミッションにしました。それが、2013年です。
”なくてはならぬ”=世の中のお困りごとを解決するようなことじゃないかということで200個、壁に貼った模造紙に困りごとを書き出しました。そこから、拡散的思考ができる人のみで、これとこれを組み合わせたらいいんじゃない?というなかで、個人宅の駐車場に停められたらいいじゃんというのが出るんです。
「いいね、いいね」と概念に囚われない人ばっかりでやってると6個ぐらいサービスができたんですね。
そのうちの1つが、akippaでした。

当時、僕たちシェアリングエコノミーっていう言葉も知らなかったですしAirbnbもUberも知らなかったんですけど、フィーリングを大事にユーザーとして感情的に「めちゃいいじゃん!」というのを邪魔させないで、その後、6個ぐらいに絞って市場調査しました。
路上駐車が多いとか、車の台数に比べて駐車場が少ないというのがわかってきました。

竹林氏:個人宅に駐車するというのは、スペースより時間ですよね。
まさに時間を買うことができるモデルだなぁと思っていて。

どうやって最初そのパラダイムを変える思考をしていくか。僕は、ずっと色んな事業を立ち上げてる人とか見てきて、事業を立ち上げるのに、4つの人材が必要だと、7年ぐらい前に気づきました。
どんな人材かというと、「起承転結」人材。
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「起承転結」人材が、揃ってると立ち上がってくと思ったんですね。
起:0から1を発想できる人。
承:グランドデザインを描いてやストーリーを語って、仲間やお金を集めてこれる人。
転:事業計画をちゃんと書いて、KPIを設定してリスク管理ができる人。
結:KPIに従って、リスク管理をしながら現場を回せる人。
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この4つの人材がどこで出てきて、どうやって新しいものを立ち上げるのか。
これ、どれが良い悪いではないんです。

大企業の新規事業は、転結にあたる、事業計画やMECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive/漏れなく、ダブりなく)分析が得意な人が集まってしまうと、なかなかパラダイムシフトができな状態になってしまいます。
また、起承の人ばっかり集まって議論が盛り上がって終わり、とかですね。
例えば、akippaで個人の駐車場使おうって、アイデアソンだけで終わっちゃう。でもこれって起承も転結もどちらも大切だと思うんです。
いまお話しした起承で言うと、特に最初モデリングを作っていく時、どんなプロセスや思考で新しい価値を生み出していったらいいのか、人とか、組織とかを交えてお話ししていただけますか。

akippa・金谷氏:最初、2014年、2015年の2年間ぐらいはそれでやっていて。とにかく、駐車場を営業で獲得して載せていたんですが、思いのほか伸び悩み…
起承のアイデアは出たけど売上が数百万円しかいかなくて、注目の割には全然使われていないなぁ…と。
何かが間違ってそうだなってことで、経験もないので自分たちより優秀な人を採用しないといけないという考えになりました。まずは、マネージャークラスを全チーム入れ替えて。
僕たちがちょっとづつCSとかマーケティングとか立ち上げた後、マネージャーを入れて大企業やテックカンパニーから人に来てもらって、だいぶ売上が立つようになってきました。

竹林氏:経営陣も呼んできてますよね?

akippa・金谷氏:結局、僕らがやってることって事業部長みたいなことで、経営としてちゃんと制度を作ったり1人1人が活躍できるように育つようにしないといけないということで。経営陣も一気に強化をして常にアップデートしていきました。
そうやっていくと、社長が優秀じゃないんで、社長のスキル真ん中ぐらいになっちゃうんですけど(笑)

竹林氏:社長のスキルは、起承の次の世界観で、ホンマにやるでっていう決心のところですね。

akippa・金谷氏:そうですね。それと、ミッション、ビジョンの共有とか、ストーリーのところですよね。駐車場ってめちゃくちゃカッコよくは、ないですよね。でも、駐車場があることによって、おばあちゃんに会う回数が増えたとか。足が悪いなかで小学校の目の前に駐車場があるから、車を停められて運動会を初めて見に行けたとか。
akippaは駐車場を提供する会社じゃなくて、人と人が会う手助けをする会社なんです。

新しいビジョン「あなたの“あいたい”をつなぐ」を作ったら、そこに共感する人たちが沢山、入ってきてくれました。そのストーリーの元に転結の人たちを集めて。
そうすると、想像もできなかった人たちも入社してくれて、資金も15社から35億集まりました。
やっぱり応援したいと言っていただけました。

竹林氏:起の人からアイデアが生まれてきて、承の人が全体最適の観点で、たぶん見てる視点が違うと思うんですね。違う観点から見ることによって新しいビジネスに軸を変えてみたり、抽象化してみているというのを気づかせていただきました。
城戸さんは、(ラクスルが成長した)後半で入社して次の新規ビジネスにいっておられるんですが、ご自身が起承転結のどの辺にいると思いますか?
また、起承、発想のところでこの辺がポイントになるところがあれば。

ジョーシス・城戸氏:私は大企業にいて、割と転結のところをやってました。ラクスルには、ジョーシスの立ち上げをするためにジョインしました。本当にゼロイチで何もない状態だったので、強制的に起承をやらざるを得ない。
プランニングってめちゃくちゃすごく大切なんですが、いわゆるPDCAをどれだけ回して多少荒くてもいいからやってみて、お客さんにあててみないとやっぱりわかんない。2021年9月にサービスとしてはリリースしましたが、プロダクトの成熟度としてはもうちょっと待ったほうがいいんじゃないかという意見もありましたが、ある意味、無理やり出したんです。
そうするとお客さまからめちゃくちゃフィードバックを頂けて、そこからはやることをいっぱい頂いたので優先順位を整理してやっていこうとなりました。
起承のタイミングのKPIではないですがどれだけ失敗したのか、お客様とお話をしながらPDCAを回せたのかが一番重要だと思っています。

竹林氏:起承のPDCAを回していって転の事業計画を書かないといけないですよね。事業計画書は最初から書いてるものですか?もしくは、見えてきたらこんなもんやで、というところでしょうか?

ジョーシス・城戸氏:最初は全く書いてなかったですね。起承の段階では、事業計画や売上みたいなKPIは全く置いてなかったです。
KPIは大事ですがお客さまにどれだけ喜んでもらっているのか、使っていただいているのかを見てました。
ちゃんと数値化しないと改善ができないので、KPIの設定の仕方の問題だとも思います。

竹林氏:これ、ものすごくヒンがトありますね。僕も新規事業を実際にやってたんでわかりますが、新規事業はKPIを売上においちゃうと足突っ込んででも売ってくる言うて。根性で売ってきましたというのは、「ちゃうねん、ちゃうねん」。
ほんまにお客さんが喜んではるのかなぁ…がポイントになり、売れる仕組みを作ることが大切です。

akippa・金谷氏:僕も全く同じことを思っています。最初は売上を追ってましたが、結局やめました(笑)
ジョインしてもらった経営陣からも「本質じゃないから、売上を追うな」と言われました。ラーメン屋さんに例えて、「ラーメンの味も接客も微妙なのに、全国にチェーン展開しても一時期は広まるけど結局リピートをしないから、どんどんまた潰れて小さくなっていく。だったらラーメンの味と接客を磨いてから、それを大きく展開しないと、結局継続的に使ってもらえるサービスにならない」
ということを言っていただいて、そこから考え直し新しい人材を入れて、ドミナントで小さく実証実験をするとかやっていきました。
これを繰り返した後、新しい人材のパワーとP/L(損益計算書)のプレッシャーがないことで、結構大きくなっていきました

竹林氏:転結と違うKPIで本当にお客さんのことを思っているかどうかっていうのを見ていかないとアカンと言う話ですね。金谷さんも城戸さんもやりながら考えるって言っていたんですが、よく企業の中で新規事業のMTGをやると、レビューばっかりかかってくるんですね。
起承の段階ではレビューではなく「バリューアップ」をやりましょうとしました。バリューアップできる人だけMTG に出席したらいい。まだ抽象度が高いときに、ナンボ儲かんねんって話は止めましょうとか。
偉い人が出てきてレビューしちゃうと、レビューが指示命令みたいになってくるんですね。例え違っていても、その答えを持っていっちゃうようになってきて。
そこはトップも含めて起承のバリューアップを心理的安全性のあるなかで、皆んなでやる。具体的にソフトを作ったりインドで開発したり、ここちょっとリスクあるとか会員情報ちゃんとしてるかとか、そういうレビューは必要ですが。

ジョーシス・城戸氏:私も大企業にいて大企業のなかで、新規事業を頑張らせていただいた経験があります。その中で学んだのが、大義をめちゃくちゃ大事にした方がいいということ。大企業だと、この事業の大義があるから社内の方や社外の人を巻き込む時に、大義が1本立っているとそれに向けて動き始めていく。
この大義のためだったら他部署の成果にもつながっていくし、会社として目指す方向性として正しいよねと「No」を言えない状況を大義としてつくっていくとだと言えます。
サービスを作るときはこういう事業がすごくいいですよね、という視点ですが、皆んなに伝えるときは、独りよがりではなく別の視点に立った伝え方をした方がいいじゃないかなと思っています。

竹林氏:とっても分かります。全体最適やパラダイムシフトが大義に添って説明できていたら、今できてなくても、こういう構造にして世の中よくしていこうがあると、大企業とベンチャーの連携がしやすいなっていう感じもしました。
また大企業で全部、起承転結をやる必要はなくて、起承と転結のチームを作って回すようなものがもっともっと出てくると、大企業もベンチャーもどんどんどんどん伸びていくなというのを今のお話から感じました。

akippa・金谷氏:補足ですが。スタートアップ側も、大企業から出てきたサービスって、結構怖くて。
僕らの場合は、始めた事業に大企業が3社参入してきたことがありましたが、僕らは人生かけてるし、ミッション実現のためにやってるから、負ける気がしなかったんですね。
(サッカーワールドカップ2022の)日本と同じですよね。負ける気しないからスペインに勝つみたいな。

竹林氏:大義というお話が出てきました。ベンチャーにいくと転結がいないとなり、大企業側に行くと起承がいないという話になります。
大企業は、副業でもいいからどんどん転結の人材にベンチャーに出ていって起承を学んできてもらって。
起承と転結の人材が、ぐるぐるぐるぐる回るような、連携や混ぜる仕組みができたらなと思ってます。
ありがとうございました。

セッション4「全体最適観点から発想する事業の“パラダイムシフト”」

【登壇者】
・akippa株式会社 代表取締役社長 CEO 金谷 元気 氏
・ジョーシス株式会社 セールス&マーケティング マネージャー 城戸 大輝 氏
・< モデレータ > 京都大学経営管理大学院 客員教授 / オムロン株式会社 イノベーション推進本部 シニアアドバイザー 竹林 一 氏

メディア掲載情報

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